『ヴァンパイアんちのメイドさん』クリスマスの晩に(ファン小説) 作家:桃の木 2016年02月09日 0 桃ノ木です!今回は稲見晶様より頂いた、ヴァンメイの短編小説をご紹介します♪クリスマスのお話なのに、こんな時期の掲載となってしまいすみませんっ素敵なお話を書いて頂き、本当にありがとうございます!以下、本編です↓『ヴァンパイアんちのメイドさん』クリスマスの晩に(ファン小説)作/稲見晶「ねえ、ことしもファーザー・クリスマス来てくれるかな?」「そうね、いい子にしてればね」 華やかな12月の街。親子とすれ違うキアイラの耳に楽しげな会話が入ってくる。(クリスマス、か) ふと漏れたため息は、だれにも気づかれずに消える。 (昔は楽しかったのにな。家族でごちそうを食べて、朝起きたら枕元にプレゼントがあって……) 両親が亡くなってからはクリスマスの彩りも、ごちそうもプレゼントも消えてしまった。 いい子にしてなかったからだ、と自分を責めていたのは何年も前の話で、今ではもうわかっている。 ファーザー・クリスマスとはつまり、そういうことなのだ。 すぐ脇を通り抜けた馬車に、はっと我に帰る。「そうだった、早く買いもの済ませなくちゃ」 にぎやかな飾りつけから目をそむけて、キアイラは歩きだした。 その晩に主であるダグラスに尋ねてみる。「あの、ご主人。そういえばクリスマスって何かしたりします?」「クリスマス?」 ダグラスは眉間のしわをわずかに深める。「……私が教会の祭りを祝うと思うか?」 吸血鬼である主人の言葉に、気まずく「……ですよねー」とだけ答えた。「なんだ、お前ミサにでも行きたいのか」「い、いえ! ちょっと気になっただけなので!」 キアイラは慌てて話を打ち切った。 クリスマスが近づくにつれて街にはますます人があふれる。その表情はどれも明るく見えて、キアイラはひとり、買い物メモを読むふりをしてうつむいて歩いた。「どうした、最近元気がないようだが」 ダグラスの問いかけにびくっとした。すぐに笑い顔をつくる。「そんなことないですよ、ご主人。私って元気なのが取り柄じゃないですか!」「それならいいが……」 ダグラスは葉巻をくゆらせながらキアイラの表情を見る。気詰まりになってキアイラはふたたび口を開いた。「えっと、強いて言うなら、最近街に人が多くて、ちょっと買い物で疲れちゃいますけど……。でも、とにかくだいじょうぶですから!」 胸を張るキアイラ。 ダグラスは細く煙を吐き出したあとに「そうか」と短く言った。 キアイラの気は晴れないままにクリスマスの晩が訪れる。 せめてもの気分を出そうと、七面鳥のもも肉を焼いて、小さなフルーツケーキも用意した。 皿を並べ、椅子に座って「メリークリスマス」と声に出してみる。 いつものように一人の食卓。その言葉はどこにもいかずに消えてしまった。(……なんか、味気ないなあ) 食べ終えた皿を片付け、主人に挨拶をしてから自室へと帰った。 ベッドの中でキアイラは考える。(明日になれば、もうクリスマスも終わり。街もまたいつも通りになって……) 自分にそう言い聞かせると少しほっとした。 真夜中、ぐっすりと寝入ったキアイラの部屋の扉が静かに開いた。 人影が忍び足でベッドに近づき、かがみこむ。 コトンと小さな音がして、枕元に箱が置かれた。キアイラは気づくこともなく寝息を立てている。 人影は立ち上がり、彼女の顔を見下ろして軽く笑った。 キアイラの部屋を出た彼に、従者トマスが声をかける。「お疲れさまでした、ファーザー・クリスマス」 ファーザー・クリスマスことダグラスは、ぶっきらぼうに「ふん」とだけ応じた。 翌朝目を覚ましたキアイラは、部屋のなかの見慣れない箱に気づいた。しわひとつない包装紙のてっぺんには、たっぷりのリボンがダリアのように咲いている。リボンに付けられたタグはたしかに「キアイラへ」と読めた。「え……? わ、わあ……、うわあー!」 キアイラは包みをほどこうともせずに歓声をあげた。「どうした、騒々しい」 ダグラスが葉巻を片手に顔をのぞかせる。キアイラは目を輝かせたまま彼を振りあおぐ。「ごっ、ご主人! これ、朝起きたら置いてあって!」 箱を持ち上げて主人に見せる。「そうか、よかったな」 少々ばかりわざとらしい返事だったが、キアイラには気づかれなかった。その無邪気さにダグラスの表情もゆるむ。 キアイラは箱をぎゅっと胸に抱えて続ける。「あのっ、ご主人、ありがとうございます!」「……!?」 ダグラスは彼女の言葉に、思いきり葉巻をかみつぶした。細かな葉が口の中に広がってむせこむ。 その姿でキアイラは察した。(あ、これ言っちゃいけなかったやつだ……) せっかくの主人の気遣いをムダにしてはいけないと必死に頭を働かせる。「そっ、そうだ!」 声が裏返った。「もしファーザー・クリスマスに会えたら、ご主人、そう伝えといてください! キアイラが、ありがとうって言ってましたって!」 ようやく落ち着きを取り戻したダグラスが安心したように相好を崩す。「ああ、覚えておこう」 自室へ帰ったダグラスは改めてゆっくりと葉巻を嗜む。「とても喜んでいましたね。準備をされた甲斐があったでしょう」 傍らに立つトマスが穏やかに言う。 ダグラスはゆるやかに立ち上る煙を目で追って答えた。「ああ、そうだな。……年に一度くらい贈り物をしてやるのも、悪くない」稲見晶さんの他作品はこちら『小説家になろう』:http://mypage.syosetu.com/495473/以前書いて頂いた「ヴァンメイ&永いメイドの手記」コラボ小説はこちらhttp://mary0mary.blog.shinobi.jp/Entry/302/ へ[1回]PR