じゃじゃ馬少女と吸血鬼・ブログ版 作家:桃の木 2015年12月23日 0 桃ノ木です!以前ご紹介しました、合作設定吸血鬼【じゃじゃ馬少女と吸血鬼】稲見晶さん作の小説をブログに掲載させて頂ける事になりました!私はキャラクターの外見を描かせて頂きました!設定画は12月16日の日記に載せてあります!上の表紙用のイラストにもあるように、おじいちゃん吸血鬼とおてんばな女の子のお話です以下、じゃじゃ馬少女と吸血鬼(1) のはじまりです♪ じゃじゃ馬少女と吸血鬼(1) 作・稲見晶 その街の外れには、古い屋敷があった。いつから建つものかは誰も知らない。 廃墟然としたその屋敷に近寄る者はなく、蔦だけが城を守る茨のように纏わりついている。 ある、夏の日。 一人の少女の手によって重く軋む扉は開かれ、眠り続けていた屋敷に再び時が流れ出す。 屋敷に足を踏み入れた彼女の名はカタリーナ。年の頃は十をいくつか過ぎたあたりだろう。 右手には十字架を固く握りしめている。「吸血鬼、いるかな……」 その声に怯えは感じられない。むしろ吸血鬼の存在を期待しているような、スリルを楽しんでいるような。 カタリーナの頭の中には、昨晩見た映画の場面が鮮明に蘇っていた。 世にも恐ろしい吸血鬼と勇敢なエクソシストの対決。ひしめく蝙蝠の羽音、弾かれる銀の弾丸。壁に追い詰められたエクソシストの喉に鋭い牙が突き立てられようとしたその時、吸血鬼は苦しげなうめきをあげて一握の灰と化す。そう、太陽の光と十字架の加護の力によって。 カタリーナはその血みどろの争いにすっかり夢中になった。そして、思いだした。ちょうど近所に、雰囲気ばっちりのお屋敷があるじゃない。 そうしてさっそく翌日に、机の引き出しの奥深くに眠っていたロザリオを手に、この屋敷にやってきたというわけだ。 もう誰も住んでいないみたいだし、見つかってもそんなに怒られはしないだろう。 でも、もし吸血鬼がいたら? そんなの決まってる。逃げるふりをして窓ぎわにおびき寄せて、このロザリオと夏の日光で退治するのだ。 知恵と勇気にあふれた少女カタリーナが、闇にうごめく残忍な吸血鬼を鮮やかに葬る。きっと、ゆうべの映画の百倍もドラマチックだ。 カタリーナははやる胸を抑えて、屋敷の奥へ奥へと足を進めた。 薄暗い館。足下には、地下への階段。カタリーナはこくりとつばを飲み込んだ。 懐中電灯を持ってくればよかったかな。ちらりと頭をよぎった思いを、首を振って打ち消した。 足を下ろすと、ぎいっと板が不吉に鳴った。「……これ、途中で壊れたりしないわよね……?」 つい口に出た弱音をはっとつぐむ。できるだけ音を立てないように、急に重さを加えないように、忍び足で下りていった。 次第に目も暗さに慣れてきた。地下の床に両足をつける。 あたりを見渡していたカタリーナの目が、一点でぴたりと止まった。 そこに置かれていたのは、昨夜映画のなかで見たのとまるきり同じような、棺。 ロザリオを握りしめる。すぐに唱えられるよう、聖書の一節を一生懸命に思いだした。 体が震えている。 怖くなんてないってば。 声には出さずに、自分に言い聞かせた。 すり足で近づいてみる。大きく十字架を描いた蓋が棺を閉ざしている。 口のなかで小さく聖書の覚えているところを諳んじた。 かたり。 不意に聞こえた音に、飛び上がりそうになる。全身を耳にして様子を探る。自分の呼吸音だけがやけに大きく響いた。 気のせいか、それかネズミよ。カタリーナがそう自分に言い聞かせたとき。再び、かたり、と音が鳴った。 今度はしっかりと見ていた。ぴたりと閉まっていたはずの棺の蓋が小さく持ち上がっている。 カタリーナはその場に立ち尽くす。悲鳴が喉の辺りまで上がっているのに、どうしても出てこない。息が苦しい。心臓は痛いほどに高鳴っている。 棺と蓋の間から、不自然に白い指が覗く。目を離すことができなかった。 ずず、と棺の蓋がずれて床に落ちた。地下室に響く音に体がびくっとした。 徐々に人の姿が起き上がってくる。男のようだ。美術館に飾られた肖像画でしか見たことのないような昔の服を着ている。 彼は蝋のような生気のない顔をカタリーナに向けた。 口ひげを蓄えた厳めしい顔つきで、頭の上からつま先までカタリーナを睨め付ける。 およそ血色を感じさせない唇がゆっくりと開いた。「誰だ……」 陰鬱でしわがれた声。カタリーナが何も言えずに凍りついていると、男の口は次なる言葉を紡いだ。「我の、眠りを……、覚ますにょ――」「……にょ?」 カタリーナは一瞬恐怖を忘れた。今、この人、噛んだ。 気まずい沈黙が落ちる。 しばらく見つめ合った後、男はおもむろに棺の蓋を片手でずるりと引き上げた。 その体が棺の中に消える。ややあって蓋が元のように閉ざされた。 バタン、というその重い残響がすっかり消えて、カタリーナは今目にしたものを頭の中で整理する。 おどろおどろしい館。棺から現れた土気色の顔の男。ほぼ完璧に、吸血鬼のイメージ通り。……まさか舌が回らずに棺の中に戻っていくとは思わなかったけど。 ほんとうに吸血鬼なのか、確かめてみなくちゃ。 カタリーナは石の地下室に足音を響かせて棺に近づく。「えいやっ!」 その蓋に手をかけて、全力ではね上げた。ガッタン、と派手な音をたてて蓋が落ちる。 横たわっていた男がまぶたを持ち上げる。中をのぞきこむカタリーナの姿に目を見開いた後、思いきりイヤそうに眉を寄せた。「ねえおじさん、おじさんって吸血鬼なの?」 ロザリオの十字架を鼻先に突きつける。男の眉間のシワがますます深くなった。「う、帰れ、こ、この……」 不自然にことばが途切れ、男は目を泳がせる。たっぷり二、三秒が経過して、はっとひらめいた顔で「こ、小童が!」とカタリーナを睨みつけた。「……いい言葉が見つかってよかったわね」「うるさい!」とロザリオを握るカタリーナの手がはねのけられた。男は身を起こし、彼女に指先を突きつけて声を荒げる。「小童、帰れと言っているだるっ……」 今度も彼の文は完成しなかった。一瞬静かになった後に、「……帰れ」とだけ低く告げる。「これだけ教えてもらえたら帰るわ。おじさん、吸血鬼?」 カタリーナは怖じることなく、さっきと同じ質問を繰り返す。 血の気のない肌をした男は「ほう」と眉を上げる。先ほどの狼狽はどこへやら、棺の縁に手をかけ、唇を歪めてくくっと笑った。「いかにも。我は、吸血鬼、オズワルド・ウォルフェンスタインだ」 自分の名だけはやたらと流暢に言った。一度息をつき、再び口を開く。「即刻帰らねば、貴様の血を、一滴残らず、しゅ、す、啜ってやるぞ」 ゆっくりと言葉を区切っていたのは、重々しさを出すためではなく、噛まないようにするためだったらしい。残念ながら、少し詰めが甘かったようだ。 オズワルドはそれでも精いっぱい威厳を示そうと、腕を組んで少女を見据える。「……じ、じきに日も暮れよう。逃げるのであれば、今のうちだぞ、……小童」 カタリーナはちらりと腕時計を見やった。現在時刻は午後四時。 場所はイギリス、季節は真夏。 あとたっぷり四時間は明るいだろうなあ、と思ったが、口には出さなかった。 オズワルドはカタリーナの動きに一瞬だけびくりとしたものの、すぐになんでもないふうを装う。「どうした、恐ろしさのあまり、み、身動きも取れんか」「どの口が」と今度こそ喉元まで出かかった。唇も少し動いた。 代わりに「そうね、それじゃ帰るわ」と告げる。なんかかわいそうになってきちゃったし、と心の中で続ける。 オズワルドは「そうか……」とあからさまにほっとした。そうしてすぐに険しい目を戻す。「に、二度と、この屋敷に近寄るな。次には、い、命の保障はにゃ、ない」「わかったわ」 カタリーナは軽い調子で答え、上へ続く階段へ足を向ける。 がたん、がたん、と棺の蓋を閉めようとしているらしき音が背後で聞こえた。 館を出て家路につきながら、最後まで噛み噛みだったなあ、とひとり笑いを浮かべるカタリーナ。 なんだかイメージとは違ったけど、思った通り吸血鬼がいたことだし、あとは退治するだけね。あれならきっと楽勝だわ。 そう考えて、はっと気づいた。来るときには持っていたはずのロザリオがない。あの時、吸血鬼に手をはねのけられた拍子に落としてきたようだ。 でも今日は帰るって言っちゃったし、また明日にでも取りにくればいいかしら。 カタリーナは足取りも軽く、太陽のさんさんと照る道を進んでいった。噛み噛みになってプライドが傷ついたウォルフェン氏はこの後、早口言葉の練習をしたとかしなかったとか…(笑)★稲見さんは【小説家になろう】でたくさんの作品を書いてらっしゃる作家さんですhttp://mypage.syosetu.com/495473/ へ[0回]PR